[記事] パラリンピック

Go!Go!里奈!!〜全盲の水泳選手秋山里奈と応援団のパラリンピック (2)

 「今日まで自分が思ったようなレースはできませんでした。今日も8割くらいの力でのぞむつもりでしたが、実際レースになると全力に近かったので……」

 予選を3位で通過した女子100m背泳ぎS11クラス秋山里奈選手は、ストイックに自身の結果を分析する。

日本からの応援団は48人。背中には「輝け里奈」の文字が。(写真:安藤理智/studioAFTERMODE)

 「スタートする前はちょっとね。過呼吸になりそうだったよ。やってる本人はもっとでしょう。そう思うと胸がつまる思いでしたよ。」

 娘の戦いぶりにお父さんが胸の内を明かしてくれた。

 「6月7月はタイムが出てましたからね。期待しすぎるなって…… 改めて満足のできる泳ぎができればね……」

 前日の予選の後、「緊張で半身が痺れてしまったんです」と心配そうに語るお父さんは、「でも、まだウォーミングアップなので大丈夫です」と気丈に答えてくれた。応援団は総勢48人が日本から駆けつけた。「あれだけ、『金、金』って言っちゃったからね」と反省する声もあったが、「応援の方もウォーミングアップ完了です!」と期待で不安を吹き飛ばす。今日の予選を終えた秋山里奈選手も「大丈夫かな? と誰もが思っていると思いますが、自分でも予選のことはさっぱりと忘れて決勝は気持ちを新たに頑張ります!」と力強く語ってくれた。

大丈夫、笑顔で行ってこい、という遠藤コーチの言葉を思い出す。(写真:安藤理智/studioAFTERMODE)

 「もうドキドキです。予選ではお父さんが息が出来なくなったっておっしゃったけれど、私たちももう……」

 応援団にも緊張が走る。息をするのを忘れないでくださいね!とジョークを飛ばすと、みなさん笑顔で「とにかく気持ちが通じるように応援します」と答えてくれた。僕らも精一杯信じて応援すると約束をしてそのときを待った。

 予選の数字を見ながらメダルに絡むの絡まないの、とあれこれ予想をするのは正直好きではない。しかしそういう報道陣が多いのは構造上仕方がないのかもしれない。効率よく需要のある結果を報道するためにはそういう考え方も必要なのだろう。僕は受験業界に関わって長いが、数字では説明の出来ないミラクルを何度も体験している。人間の力は計り知れない。

スタートを強化したと言う里奈さんの泳ぎは、文字通り出だし好調。(写真:安藤理智/studioAFTERMODE)

 序盤から飛ばしていた。今までの予選とは違う、覚悟を感じる泳ぎだ。一直線。50mまでは世界記録ペース! いける! 応援団が声を張り上げる。少し体がねじれて、75m付近でコースロープに触れた。すぐに体制を整える。4コースと6コースがものすごい追い上げを見せる。逃げ切れるか!? ほぼ4コースと並んだ。あと5m!緊張が走る。応援団が息をのむ。

ゴールして数秒、思わずガッツポーズ。これも遠藤コーチの指導だったとか。(写真:安藤理智/studioAFTERMODE)

 里奈さんがガッツポーズをした。一着だ! 金だ! 分かった瞬間、観客席を駆け上がった。里奈さんはぴょんぴょん飛び上がってガッツポーズをする。応援団の上崎さんは「夢みたいです! 信じていましたけどね。本当に有り難うございます!」と涙を流し、応援団の岩田さんはガッツポーズを繰り返しながら、周りの観客と祝福の握手をしている。みんなまるで自分事のようだ。スポーツがこんな幸せな空気を作っていることに希望を感じた。ダッシュでミックスゾーンへ走り、里奈さんのインタビューへ。沢山の報道陣から質問攻めにあう里奈さん。

それぞれの応援席で涙を流す応援団。(写真:矢萩邦彦/studioAFTERMODE)

 「大好きな背泳ぎを泳いで、しかも金メダルを取れたので、もう、なんというか思い残すことはないというか、やりきった感があります。やっぱりパラリンピックで世界一にならないと、本当の世界一ではないと思って今までやってきたので、やっと、、やっとかないました」予選の時の緊張感からやっと解き放たれた笑顔が爽やかだった。

表彰にて、1分19秒50はパラリンピックレコードを記録。(写真:矢萩邦彦/studioAFTERMODE)

 「寺西さんに言うなと言われていたのですが、一番だよと伝えてしまいました」と八尋さん。レース中、棒でタイミングを伝えていた寺西さんは「俺はパーフェクトだったんだけど、後はアイツがね」と報道陣からインタビュー攻めにあっている里奈さんの方に目をやる。いたずらっ子みたいな笑顔で里奈さんのゴールドメダルを祝福していた。

金を取るまではやめられない、と迷いながらやってきた2年間が何よりも苦しかった、と語る里奈さんは最高の笑顔を見せてくれた。(写真:安藤理智/studioAFTERMODE)

 表彰式で「君が代」が流れた。アテネで銀を獲って表彰台に立ったときにやっぱり日の丸を挙げて、君が代を聞きたいと言っていた里奈さん。それが叶って「本当に楽しかった」とという。応援団の和泉さんは「50年ぶりでしたよ君が代を歌ったのなんて。本当に嬉しかった! もう泣けて来ちゃってねぇ。外人さんとかも肩をたたいてくれて、こんな嬉しいことは一生ないよ」と涙ながらに話してくれた。

 応援団は祝勝会へ、里奈選手はまだまだ出場種目が残っている。さらなる期待を胸に、それぞれの記憶に残る夜へ。里奈さん、本当におめでとうごさいます!