[記事] パラリンピック

これがゴールボールだ! ―日本ゴールボール選手権大会第一次予選会レポート―

パラリンピック後、初のお披露目!代表選手も全員集合

試合前、アイシェードを着け審判のチェックを受ける九州なでしこのメンバー

 「練習の手伝いをしてくれた男子の選手、私たちを支え続けたスタッフのみなさん、ここに今日見にきてくれている人たち。様々な人たちに感謝し、最高のプレイをすることをここに誓います!」

 日本ゴールボール界を選手として牽引し、三度目の出場となったロンドンパラリンピックで悲願の優勝を果たした小宮選手の力強い宣誓が秋雨の音で包まれた体育館に響き渡る。

 ゴールボール女子日本代表が日本パラリンピック史上初の団体競技金メダルを手にしてから約二週間が経った9月の週末。埼玉県国立障害者リハビリテーションセンター第二体育館にて日本ゴールボール選手権大会女子第一次予選会が行われた。3チーム、総勢12人の選手が集まり、白熱の試合を展開させた。日本代表選手6人のうち小宮、浦田、安達選手は九州のチームである“九州なでしこ”に。欠端選手は神奈川のチームである“かぼち屋”に。日本代表チーム最年少の若杉選手は東京のチームである“チーム付属”に。関西で活躍している中嶋選手は観客に向けてゴールボールのルールを紹介するデモンストレーションマッチの選手として参加した。今大会はロンドンパラリンピック後初となる公式試合であり、一般の人たちにとってゴールボールを披露する機会となった。

大迫力の試合に思わず声が出てしまう人も

九州なでしこvsかぼち屋。点差を詰めようと必死にボールを投げる欠端選手

「クワイエットプリーズ、プレイ!」

 観衆の見守る中、試合が始まる。攻撃をする選手が鈴の入った重さ1.25キロのボールを全力で投げ、相手は長さ約9メートルのゴールを守るために選手三人がそれを全身で受け止める。選手はプロテクターを着けてはいるが、その球の速度は時速30キロ~50キロともいわれ、小柄な彼女たちがボールを受け止める度に鈍い音が会場に響き渡る。ゴールボールは耳を使うスポーツであり、観客は競技中に音を立てたり歓声をあげたりしてはいけないルールになっているが、あまりに迫力のある試合に思わず声が出てしまう観客もいた。

「大丈夫!なんとかなるぞ!一回を大切に!」

 かぼち屋のセンター、内田選手が他の選手を励ます声が会場に響く。日本代表選手である小宮、浦田、安達選手が所属する九州なでしこの猛攻にかぼち屋は大きな点差をつけられてしまうも彼女らは諦めずに必死の投球を繰り返す。“諦めたらそこで試合終了”。そんな漫画の名言を思い出させるような試合だ。

「さーすがー!身体がでかいだけあるわ!よーし!よくやったぞ!えらいぞ!」

 試合終盤に動きが悪くなってきた選手を内田選手が冗談混じりに励ます。思わず会場からも少し笑い声が溢れる。かぼち屋はさらに力強いチームワークで巻き返しを図るも、パラリンピックで中国を相手に鉄壁の守りを見せた浦田選手の壁を破ることが出来ず、惜しくも点差を詰められずに試合終了となった。

 金メダル獲得の報道で初めてゴールボールを知り、インターネットで日程を調べて試合を見に来たという70代の男性は「正直、障害者スポーツと聞いていたのでもう少し弱々しいものを想像してきたのですが、普通のスポーツと同じように迫力ある試合が見られて大満足でした。目隠しをつけて試合をして、しかもあんなに早い球を投げているのになかなか点が入らない。彼女らが素晴らしいアスリートだという当たり前のことに気付かされました。早速、妻に自慢して次の試合は家族みんなで見に行きたいと思います」と話した。

アイシェードを着けた選手たちは床に敷かれたビニールテープを触り、自分がコート上でどの位置に居るかを知る

 テレビの報道で今日の試合のことを知り、同じく初めて試合を見たという50代の男性は「私は普段、サッカーのコーチをしているんですがこのスポーツは見かけよりもずっと奥が深いと感じました。足音をわざと鳴らして相手を翻弄したり、遅い球を投げて時間稼ぎをしたり、チームの真ん中の選手がどの方向にボールが来るかを指示したり。単純なボールの投げ合いの中に様々な戦略が隠れているし、チームによっても選手によってもスタイルが違ったりする。これは見ごたえのあるスポーツですよ、もっともっとたくさんの試合を見てみたくなりました」と興奮気味に話した。

魅力を伝えるために必要なものとは

試合を見守る観衆とデモンストレーションマッチを担当する男子選手達

 彼女たちへの評価をする声がある一方で「ホームページが見にくく、情報を得づらい」「こんな良い試合が見られるなら、もっとたくさんの人に広報すべき。もったいない」のような意見も取材を進める中で聞こえてきた。

 これに対しゴールボール協会理事である新居氏は「私たちもそこに力を割きたい、という気持ちは強くあります。ですが残念ながらそこまで手を回しきれない、というのが現状なのです。スタッフは自分たちの仕事終わりや休日の家族サービスの合間のような時間を使って活動していますし、協会やボランティアの人数もあまり多くありません。私たちスタッフの中に充実した広報の知識やホームページ制作、更新の知識に富んだ人が居たりすれば話は別なのですが…」と話した。

 また、スポーツ観戦が趣味という20代の男性は「インターネットのニュースでゴールボールという競技が決勝まで進んだ、というのを見てこれは生中継で見たい!応援したい!とテレビ欄を見たのですが…何処にも書いてなかったんですよ、ゴールボールのことが。しかたなく、現地で試合を見ている人のSNSを追っていたのですが、それも途中で途切れてしまったので仕方なく諦めました。一試合通して見てみたかったですし、オリンピックのように優勝が決まる瞬間を共有したかったのでとても憤りを感じました」と語った。ゴールボールという競技そのものの醍醐味や選手の活躍が観衆に評価される一方、その魅力を伝えるための環境は未だ整備されてはいないようだ。

 大会は二日間の激戦の末、九州なでしこが攻守ともに素晴らしいプレイを見せ優勝となった。次に若杉選手の力強い投球が光るチーム付属が準優勝となり、登録選手3人という状態でありながらも強敵相手に奮闘を続けた欠端選手所属のかぼち屋と続いた。最優秀選手にはロンドンパラリンピックで攻撃の要となり、今大会もその投球でチームを優勝に導いた安達選手が選ばれた。世界のフィールドで大観衆を魅了した、彼女らの活躍が次に見られるのは11月16日、17日に兵庫で行われる日本ゴールボール選手権大会。これからも、彼女たちから目が離せない。