[記事] パラリンピック

ゴールボール女子日本代表がAPCアジアカップで優勝!~確かに感じた“第二章”の幕開け~

金メダルを受け取り、表彰台に立つゴールボール女子日本代表

アジアパラリンピック委員会(APC)主催第一回ゴールボールアジアカップが6月3日から12日まで中国・杭州にあるAPCセンター・オブ・エクセレンスで行われ、男子女子合わせて8カ国14チームが参加。ロンドンパラリンピックで金メダルを獲得したゴールボール女子日本代表は決勝戦で永遠のライバルである中国に1-0で勝利し、このアジアの舞台でも金メダルを手に入れた。

事実だけを並べて書くと“世界で優勝した日本代表がアジアでも優勝した”というシンプルな出来事だ。しかし、今回のアジアカップ優勝はその言葉が単純に持つ意味以上に深く、彼女達がリオデジャネイロでの金メダルを獲得するために大きな一歩を踏み出したことを確信させるようなものだった。

予選最終試合、中国戦。同点弾を決めた若杉と新キャプテンの浦田

アテネ、北京、そして金メダルを獲得したロンドンパラリンピックではキャプテンを務めた小宮正江が現役引退を発表して約半年、江黒直樹女子日本代表監督が「戦力面でも精神面でも日本代表の核だった存在」と語る小宮が抜けた影響は計り知れないものだ。日本が世界に誇る“ミス・パーフェクトディフェンス”、センター・浦田がキャプテンを引き継ぎ、新体制を作る中で小宮が抜けたポジションを誰が埋め、自分達の研究も対策もしてくるであろう強豪国とどのようにして闘っていくか。それが日本代表が抱える大きな課題だった。

今大会で日本はイランの選手が放つ回転力が高いバウンドボールを防ぎきれず3-4で破れ、世界ランク1位の中国に勝つことが予選突破の絶対条件という危機を迎えた。後が無くなった中での中国戦、日本はセンターのフェイフェイ選手を中心に作られた鉄壁から点を奪えず、一点を失点した状況で後半戦に投入する。日本の大砲であるライト・安達阿紀子が相手から過剰なまでに警戒を強め続けられる中、この状況を救ったの小宮の背中を追い続けてきた若杉遥の一球だった。

「ボールを投げた瞬間、自分でも“良いバウンドが投げられたな”って感じたんです。実は私、中国代表を相手に点数を取れたのはあの同点弾が初めてだったのでとても嬉しかったですし、これからさらに勢いが出せるような気持ちにもなりました」。

序盤から絶えずウィークポイントへの攻撃をされ続け、ストレスを感じていた所で同点に追いつかれた中国はその後、一気に肉体的にも精神的にもバランスを崩し始める。若手選手の会心の一撃で勢いづいた日本は地道に鍛え上げてきた運動量を武器にフルコートを使い、攻撃に多彩さを増して相手選手を追い詰めていく。誰の目にも明らかに劣勢となっていく中国代表を観衆が見守る中、ついに安達が放ったフィニッシュボールが中国のゴールを揺らした。

「私の目標の選手だった小宮さんが引退になり、寂しい気持ちでいっぱいになりました。それと同時に、今この時期を良い方向に持っていくか、悪い方向に持っていくかは私達次第なんだ。凄く重要な時期に来ているんだということを感じています」。

試合終了のブザーがスタジアムに鳴り響いた。

浦田と安達は真っ先に若杉に駆け寄り、その肩を抱きしめて喜びを分かち合っている。二年前のパラリンピックでほとんどコートに立てず、悔しい思いをしていたあの日の少女はもうそこには居ない。若杉遥を見守ってきた誰もがそれを確信した瞬間だった。

学業を理由に代表から離れていた欠端。復帰した彼女が常に着けている“勝”のお守りから今まで以上に強い覚悟が感じられる

留まることを知らない選手達の可能性

「今回のアジアカップは自分達の戦い方が確立され、チーム自体が大きく成長した大会だったと言えると思います」

表彰台の中心に立ち、各国から拍手を浴びたアジアカップを終え、帰路に向かう杭州の空港で江黒直樹監督は今回の遠征をこう振り返った。

「選手それぞれがお互いの良い部分を要求し合い、さらに引き出し合う。チームの厚みが増し、新しいチームの形が見えきてたと感じました。今回の戦いの中で若杉はディフェンス面でもオフェンス面でも大きな貢献をしてくれましたし、代表に復帰した欠端は精神面でまだ課題を抱えている若杉をフォローし、チームのディフェンス力を補ってくれました。選手達も自信をつけることが出来たのではないかと思います」。

しかし若手選手の台頭やチームの構成力を評価する一方、彼は彼女達の今後の課題と可能性についてこう話す。

「今回の優勝は運に恵まれていた部分も多く、技術面でも精神面でもチームには課題がまだまだあります。私達はもっと発展していける。今、持っている戦いからまた別の戦い方へ、さらにまた別の戦い方へという風にチームのメンバーが持っているアイディアをさらに引き出し、それを実践レベルに発展させていく。そうしたことがさらに世界で戦っていくチームを作っていくことになると思います」。

ロンドンパラリンピックで金メダルを獲得したゴールボール女子日本代表。史上初の快挙を成し遂げ、世界の頂点に立った彼女達の頭にあるのはただ一つ。リオデジャネイロでの金メダル、異例のパラリンピック二連覇だ。“栄光”へ向かう第二章が今、幕を開けた。